【ブラひろし】『茅場町・長寿庵』
蕎麦のことは語らないと決めてから二十年は経つだろうけれど、この味だけは御伝えしなければならないと思い、憚りながら筆を取る。
昨今の健康ブームに乗ってか乗らずか、ここにきて蕎麦の人気は殊のほか上がっているように感じている。
循環器の調子を整えてくれる蕎麦は、紛れもなく長寿を齎す食材であろう。血液の循環が良いことは、人が生を営むにあたって最も重要視すべきことだと言えるのだ。即ち蕎麦は、万病を予防し、難病の平癒にも寄与するであろうスーパーフードなのである。
さては古来には救荒食であった蕎麦だが、長年に亘る食材遍歴により食し方の研究が進むことで、驚くべき美味しさを伴う食べ物となった。
その研究は今でも続いていると言えて、伝統の味を守るなかでの変遷は一種の文化にも例えられるだろう。
蕎麦のみならず何かを語る上で大切なことはバランスだ。
つけ蕎麦であれば、つけ汁と蕎麦のバランスだったり、つけ汁にも配合のバランスは元より味そのもののバランスは重要となる。無論、蕎麦にも粉の配合バランスや、切り方や長さなど、つけ汁との相性が味のバランスとなる。
そんなこんなで、蕎麦愛の強い方々が自分の好みも併せながら、蕎麦を粛々と語る様を見ること屡々であるが、しかし、ここで小生が同じような話を伝えても面白くも何ともない。
茅場町・長寿庵
上記が今回のコラムの主役の屋号である。
御創業は明治40年、百年を越える老舗の蕎麦屋だが、在所が日本橋茅場町ということで、サラリーマンの聖地のような風情を滲ませる。茅場町・長寿庵は、永代通りと新大橋通りが交わる茅場町の交差点、カオーのビルの斜向かいの地下一階に鎮座する。
ざっと御紹介をさせて頂くと茅場町・長寿庵の蕎麦は常陸秋蕎麦を二八で打った色味上品な江戸蕎麦である。
ではあるが、ここに述べたい特徴を申せば、小生的表現を用いると『つけ汁を必要としない蕎麦』とでも言おうか。じつに、蕎麦そのものの味が他店とは違うのである。
それに気づけし御人が、さて何人いるだろうか?
ご飯を食べた時に、美味しい米と、さほど美味しくない米があったとする。双方は同じ「米」ではあるが、美味しい米で炊いた「ご飯」は明らかに美味しい。。。のと同様に茅場町・長寿庵の蕎麦は、明らかに『蕎麦が美味しい』のだ。何故このような旨さを醸すことが出来るのか、それは全くの不思議とさえ言える。
どう美味いのか。
それは先ず「噛み応え」にある。蕎麦は喉越しがイイのが良いとされているが、こと茅場町・長寿庵の蕎麦だけは噛んで味わうことで、その美味しさを堪能できる。その「噛み応え」に答えるようにして蕎麦本来の持つ「香りと味」が口中に広がるのが茅場町・長寿庵の蕎麦である。
ぜひ御堪能いただきたい。
もし店主が許すなら、塩で食したいと思うほどの味だ。
かえしに、手繰った蕎麦を僅かにつけて食したい【本物の味】が此処にある。
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